◆すっかり暖かくなり春めいてきた今頃になって、ここ数年ご無沙汰の白鳥を撮りに行ってきた。梅も開花したことだし、白鳥と白梅をコラボしたギャラリーなど面白いかも、と思い立ったのだ。◆那珂市の古徳沼に朝5時半に到着。真っ暗な沼の縁には、夜明けを待つ三脚がずらりと並んでいる。空が白んでくると白鳥が動き出し、カモたちがどこからともなく飛んできて、沼は賑やかになってくる。3月ともなると白鳥の数も少ないが、私のお気に入りの撮影ポイントに数羽の白鳥が近づいてきて写真を撮らせてくれた。◆日の出とともに辺りはすっかり明るくなり、さっきまでの神秘的な沼はもうどこにもない。さて、これから水戸の偕楽園へ移動して梅の撮影だ。車に戻ろうとしたとき、沼に沿う道の縁に梅の木が一本だけあるのを見つけた。まだ咲き始めたばかりで、私的には撮り時だ。花同士が重ならないので一つ一つの花を綺麗に撮れる。◆予定を変更して古徳沼で梅を撮影することにする。三脚にしがみつくカメラマンたちを尻目に、梅の撮影に夢中になっていると突然ザザザッと何かが走るような音が聞こえた。ファインダーから目を離してその方向を見ると一匹の狸がこちらに走ってくる。私と向かい合った狸は一瞬止まり、ためらった後、私をかわすように山の奥に走り去った。とっさの事でピントを合わせる暇もなく
Soft 120mmレンズで1枚だけその狸を撮り、カメラの液晶画面で拡大してみる。写っているのは明らかに狸だ。わざわざ人前に飛び出してくるなんて珍しいなぁと思いながらも、苦笑いする自分がいた。もしかして、やまちゃん?
前回のギャラリーの後書きにも書いた、今は亡き写真仲間のやまちゃんは「狸」というハンドルネームを使っていたからだ。
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◆私は花の撮影が好きだ。背景の処理や光の向き、どの部分をどう切り撮るか、あれこれ工夫しながら撮り重ねることが楽しかった。写真を始めて間もない、そんな私の花の写真を見て、やまちゃんが言ってくれた言葉がある。「Tomさんは構図に凝り過ぎではないでしょうか」。言われた当時は反発したが、後々、この言葉を思い出し、反芻するようにしている。奇をてらった構図よりも、素直に花の美しさを表現することが大事なのだ。調子に乗りやすい私には本当に有難く温かい言葉だった。私がカメラの液晶画面を見ながら苦笑いしたのも、突然私の眼の前に現れた狸が「構図に凝り過ぎだよ、Tomさん」と言いに来たように思えたからだ。◆やまちゃん、大丈夫だよ。一生涯、忘れることはないから。
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